日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
原著
地域在住高齢者のIADLの「実行状況」と「能力」による評価の検討―基本チェックリストと老研式活動能力指標から―
鈴木 直子牧上 久仁子後藤 あや横川 博英安村 誠司
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2007 年 44 巻 5 号 p. 619-626

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抄録

目的:これまで日本では高齢者のIADL(instrumental activities of daily living)の評価に,日常生活課題の「能力」を評価する老研式活動能力指標の手段的自立が汎用されてきた.しかし改正介護保険制度で用いられる基本チェックリストでは,老研式活動能力指標と同様の日常生活課題について「実行状況」を評価している.本研究ではIADLの「能力」と「実行状況」を比較し,「実行状況」による評価の意義を検討することを目的とした.方法:地域在住高齢者を対象に,面接による聞き取り調査を行った.IADLの「能力」は「バスや電車で外出」,「日用品の買物」,「食事の用意」,「請求書の支払い」,「預貯金の出し入れ」が「できるかどうか」をたずねた(老研式活動能力指標の下位尺度).「実行状況」は上記と同じ生活課題を「しているかどうか」をたずねた(「バスや電車で外出」,「日用品の買物」,「預貯金の出し入れ」が基本チェックリストに含まれている).これらの「能力」と「実行状況」の回答から,対象者をIADLの良好群(3項目すべてできる·している),境界群(すべてできるが,少なくとも1項目していない),不良群(少なくとも1項目できない)の3群に分類し分析を行った.結果:IADL 5項目のうち男性は「食事の用意」,女性は「請求書の支払い」で「できるがしていない」と答え,「実行状況」と「能力」に乖離がみられる者が多かった.IADLが境界群であった者は男12.5%,女13.4%であった.また,良好群,境界群,不良群の順に身体,社会,心理面が悪化する傾向が見られた.結論:境界群は高齢者の生活機能低下の早期の段階であると考えられる.基本チェックリストは「実行状況」をたずねることにより,「能力」ではスクリーニングできない境界群を抽出することが可能であり,介護予防を進めていく上で意義があると考えられた.

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© 2007 一般社団法人 日本老年医学会
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