日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
症例報告
上大静脈・右心房内への浸潤および肺転移をきたした浸潤性胸腺腫合併重症筋無力症の1例
越智 雅之戸井 孝行鴨川 賢二永井 勅久田口 敬子河野 祐治伊賀瀬 道也小原 克彦三木 哲郎
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2010 年 47 巻 2 号 p. 158-161

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抄録

症例は72歳女性.2006年春頃から左眼瞼下垂,10月から右眼瞼下垂,11月から夕刻の易疲労感,鼻声,発語困難感を自覚するようになった.近医でのCT・MRI検査にて浸潤性胸腺腫を指摘され,4月下旬に精査・加療目的で当院当科へ入院した.神経学的所見では意識清明,知能正常.右眼瞼下垂あり.眼球運動正常,複視なし.構音障害なし,嚥下障害なし.項部硬直なし.上下肢運動系に異常なし.腱反射は両側上腕二頭筋・膝蓋腱反射が軽度の亢進あり,病的反射なし.小脳症候は認めなかった.感覚系では,明らかな異常は認めなかった.膀胱直腸障害なし.右眼瞼下垂,易疲労感,鼻声などの症状は夕方に増悪し,休息により改善がみられた.抗核抗体は40倍,抗アセチルコリンレセプター抗体62.9 nmol/lと上昇していた.テンシロン試験陽性であり,左右眼輪筋でHarvey-Masland試験陽性であった.胸部造影CT検査で,前縦隔と上大静脈から右心房にかけて造影されない腫瘤を認め,それらは上部で連続性がみられた.また,右中葉には径18 mmの結節影もみられた.胸部造影CTおよびMRI検査所見から,前縦隔腫瘍は浸潤性胸腺腫が疑わしく,右肺中葉結節影は浸潤性胸腺腫の遠隔転移のほか既往歴から乳癌再発の可能性も考えられた.腫瘍による肺塞栓をきたす危険性が高く,早期に手術が必要と判断され,2007年5月下旬に右中葉切除術,拡大胸腺摘出手術,人工血管バイパス術(体外循環補助下上大静脈再建)を施行した.病理検査にて右肺中葉結節(WHO分類:type A thymoma)および,前縦隔腫瘍(WHO分類:type B2 thymoma)はthymomaであり,遠隔転移が認められたため正岡分類stage IVbと診断した.血管内への直接的な浸潤,肺転移をきたしたことがこれまでの報告例と比較し特徴的であった.

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© 2010 一般社団法人 日本老年医学会
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