抄録
福島の大震災の特異性は,壊滅的な地震や津波による浜通りの市町村へのダメージに加えて,危険度とその範囲が判然としないままに避難や生活の糧を破棄するよう指示が追加されていった広域な放射線汚染,被曝への恐怖から惹起されたであろう国内外からの被災地・福島を回避する心理が膨らませた経済的損失や精神的重圧にあるように思う.
小雪の舞う早春に突然起こった未曾有の体験に対して,地方行政,地域の医療機関は懸命な対応を続けた.急性期には水道,電気,ガス,通信,移動手段(ガソリン)が整っていることが職務の前提であったことを痛感した.DMAT,被曝医療チームが地域の医療チームに加わり活動した.深刻化していく原発復旧作業の中,県内避難所2万5千人への巡回,20~30 kmの屋内退避地域の在宅患者への支援などを行った.
専門職には想定外などあり得ないこと,日々の有機的な組織・人と人との連携が変化への対応力となること,分かりやすい説明能力が安心感を生むことを皆が学んだように思う.医療と原子力事業の根幹に横たわる安全管理には共通する要素が多い.プロフェッショナルとしての使命の省察が個人・組織のレベルで予断なくなされてきたか,厳しく点検されることは,長年に及ぶ放射線汚染という重荷を背負いながら生きていかなければならない被災地域への大きな責務であるように思う.