検査値から臨床的判断を下す際に,その人が「正常」であるか「異常」であるかを区別するために用いられる検査値を正常値という.高齢者では個人差が大きく,集団としての正常値を設定することは困難であり,そのため通常は検査値の判定には基準値が使われている.しかし基準値は単に健康な集団での平均的な検査値の範囲を示すだけであり,現在及び将来の健康状態の判定や推測を行うように作成されたものでない.老年医学の実践の場においては生活自立を予測するような生活習慣病の検査基準値の設定が是非とも必要である.本研究では生活自立と関連する認知機能低下に関して,その危険因子の基準値について検討した.認知機能低下の危険因子は多いが,それぞれの因子の寄与は小さく,従来の方法でカットオフ値を明確に決定することは多くの場合困難であった.縦断的なデータから生活習慣病の検査値の最適な範囲の設定を行う新たな方法論が必要である.