2015 年 52 巻 2 号 p. 177-183
症例は70歳男性.42歳,胃潰瘍発症時に2型糖尿病を指摘され,内服治療開始.飲酒習慣はあったが,65歳以降は節酒し機会飲酒程度,明らかな偏食も認めなかった.2012年1月(68歳時)に不安定狭心症を発症,冠動脈バイパス術施行され,その際に血糖コントロール不良にてインスリン治療を開始された.2012年11月頃から頻回の嘔気・嘔吐を認め,胃内視鏡検査にて胃潰瘍瘢痕による幽門狭窄と診断された.2013年6月にふらつき,歩行困難が出現し,頭部MRI検査で小脳虫部にFLAIRおよびDWIにて高信号域を認めたため,小脳梗塞として入院加療した.退院後も嘔気が続き,12月にふらつき,歩行困難に加え複視が出現.眼振,体幹失調,眼球運動障害認め,MRIでは前回と同部位の小脳虫部に加え,第三脳室周囲や中脳水道周囲にも異常信号域を認めた.Wernicke脳症を疑いビタミンB1投与を行ったところ著効し,投与前の血清ビタミンB1値は低値(11 ng/ml)であることが判明した.大量飲酒や偏食は認めないものの,糖尿病,幽門狭窄,抗潰瘍薬の使用,インスリンの使用など,複合的な要因にてWernicke脳症を発症したと考えられた.高齢者では脳血管障害との鑑別も重要であり,示唆に富む症例であると考えられ報告する.