日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
症例報告
経カテーテル大動脈弁植込術を施行した開心術高リスクの超高齢重症大動脈弁狭窄症の1例
福田 信之上野 博志平井 忠和井上 博絹川 弘一郎
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2016 年 53 巻 2 号 p. 158-163

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抄録

大動脈弁狭窄症(AS)は加齢に伴い増加し,心不全などの症状が出現すると予後は不良である.症候性ASは早期に大動脈弁置換術を行うことが推奨されているが,高齢者ASでは手術リスクを考慮し保存的治療にとどまる例が多い.近年,開心術不適応のASに対して経カテーテル大動脈弁植込術(Transcatheter Aortic Valve Implantation(TAVI))が可能となり,従来の治療と比べ低侵襲的に施行可能であることから特に高齢者への治療拡大が期待されている.今回,開心術のリスクが高い超高齢ASに対し,TAVIを施行し良好な経過が得られた1例を報告する.85歳の男性で,AS,間質性肺炎,関節リウマチ(RA)のため通院加療中であった.NYHA IIの心不全症状を有し,心臓超音波検査で大動脈弁弁口面積0.71 cm2,大動脈弁通過最高血流速度4.4 m/秒,大動脈弁平均圧較差46 mmHgであり重症ASと診断した.症候性の重症ASを有し手術適応と診断したが,間質性肺炎のため呼吸機能は低下し,RAに対して免疫抑制剤を服用していることから,開心術リスクが高くTAVIが望ましいと判断した.経大腿アプローチで,バルーン拡張型生体弁26 mm弁を留置し合併症なく終了した.手術翌日から歩行可能で,術後6分間歩行距離・息切れ症状は改善し,ADLも低下することなく術後7日で退院した.今まで治療困難と判断されてきた高齢AS治療において,TAVI治療により良好な経過が得られた.開心術リスクの高い高齢ASに今後TAVI治療が拡大していくことが期待される.

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© 2016 一般社団法人 日本老年医学会
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