日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
老年医学の展望
高齢者心不全におけるフレイル,認知機能障害対策
楠 博新村 健
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2019 年 56 巻 2 号 p. 107-114

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抄録

フレイルは高齢者において全身の生理的予備能が様々な要因により低下することで,ストレスに対する脆弱性が増加し,要介護状態におちいりやすい状態と定義されている.心不全患者では主に心拍出量の低下による筋肉量,筋力の低下から身体的フレイルの構成要素であるサルコぺニアを来たしやすいことが報告され,心不全とフレイルとの相互作用が注目されてきている.一方で,共通の病態生理学的基盤のもと認知機能低下と身体的フレイルが同時に発症する病態として,コグニティブ・フレイルという概念が提唱されている.

心不全,フレイル,認知機能障害はそれぞれ独立した病態に見えるが,低栄養,炎症,神経内分泌異常などの共通した基盤の上に成り立っており,相互に影響しあいながら悪循環を形成している.その悪循環を断ち切るためには,まだ可逆的と考えられるプレフレイルや軽度認知機能障害(MCI)の段階で適切な介入をするべきである.介入方法としては心不全に対する薬剤治療のほかに,運動療法,栄養療法がフレイル,認知機能障害に対して有効であることが明らかになってきた.

高齢の心不全は時に根治が望めない進行性かつ致死性の病態であるため,終末期医療を視野に入れた意思決定の支援を行う必要がある.超高齢心不全患者がさらに増加していくことが予想されるなか,プレフレイルやMCIの段階で早期に発見し,心不全に対する薬物治療の他に,適切な運動療法,栄養療法を行い,身体機能,認知機能の維持を目指すことは意義が大きい.ADLレベルの維持・向上に努めるために医療職だけでなく多職種の協力体制を構築した全人的かつ包括的な医療の提供が求められている.

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© 2019 一般社団法人 日本老年医学会
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