高齢者の食の目的は単なる延命でも純粋な治療でもなく,生活習慣病の予防や管理だけでもない.生命の保持と日常生活活動機能の保持,さらには「食べる楽しみ」も目的としなければならない.本稿では,食事・栄養に関する唯一の包括的ガイドラインである『日本人の食事摂取基準(2020年版)』が高齢者の食と栄養についてどのような考え方を取り,どのような基準を定めているかについてエネルギーとたんぱく質を中心に簡単にまとめることにする.しかしながら,食と栄養のエビデンス構築は他の医学領域に比べると立ち遅れており,質の高い研究の蓄積とその正しい社会応用が急務である.