日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
症例報告
脳梗塞発症後,通所リハビリテーション利用にて注意機能訓練実施により安全運転のための運転能力向上を認めた1例
佐藤 美穂柴 隆広地主 千尋沢谷 洋平桐生 茂阿部 晶子浦野 友彦
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2022 年 59 巻 1 号 p. 102-109

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抄録

近年,本邦では高次脳機能障害者が自動車運転を再開するための,運転の安全性に関する評価および支援が課題となっている.高次脳機能障害者の運転再開については,その可否判断が難しく,支援方法も確立されていない.交通機関が充実していない地域において,高次脳機能障害者の在宅生活を支援するためには,通所リハビリテーション施設などでも運転再開に向けた取り組みが必要となる.今回,左視床の脳梗塞によって注意障害を呈した1例に対し,通所リハビリテーションにおいて運転自立を目標とした支援を行ったので,言語聴覚士の立場から報告する.

症例は60歳代の右利き男性で,脳梗塞により高次脳機能障害(注意障害が主症状)を呈した.著明な四肢の運動麻痺は認めなかった.発症から約2カ月後より,通所リハビリテーションの利用を開始した.自動車運転再開を目標としたリハビリテーションおよび支援は,通所リハビリテーション開始から約1カ月後より実施した.自動車運転の可否に関する評価は,知的機能,注意機能,前頭葉機能に関する高次脳機能検査,脳卒中ドライバーのスクリーニング評価日本版(J-SDSA)による机上評価と日常生活における行動観察を実施した.また,主治医から,スピードを出さない,妻が必ず同乗する条件付きでの運転の許可を得て,安全性の評価も行った.その結果,約10カ月後には,机上評価において,J-SDSAの成績が不合格判定から合格判定となった.日常生活の行動観察においても,注意機能低下に起因する家事の誤りが目立たなくなったことから,主治医とともに自動車運転自立であるとの判断を行った.

当通所リハビリテーション施設では,地域で生活する高次脳機能障害者からの自動車運転に関する相談が増加している.高次脳機能障害者の運転再開の支援を行うためには,主治医や地域にある他施設,さらには自動車教習所とも連携し,多方面より評価や訓練・指導を進める必要があると考えられた.

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© 2022 一般社団法人 日本老年医学会
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