日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
総説
高齢がん患者の在宅療養環境の実態と課題
松岡 歩
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2025 年 62 巻 3 号 p. 259-266

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抄録

高齢がん患者の在宅療養は,がんそのものに加え,フレイル,認知機能低下,多疾患併存,社会的孤立など,複雑で多面的な課題を抱える患者にとって,生活の質と尊厳を維持しながら過ごすための重要な選択肢である.多くの患者が「住み慣れた自宅で最期まで過ごしたい」と希望する一方で,医療・介護資源の地域間格差,制度上の縦割り構造,診療報酬制度の不備,多職種間の連携体制の未整備といった課題が,在宅療養の実現を困難にしている.

在宅療養を支えるには,腫瘍医と老年科医の協働を基盤としつつ,訪問診療医,看護師,薬剤師,ケアマネジャー,リハビリ職,福祉職など多職種が,患者の希望・価値観に基づく共通の目標を共有しながら,互いの専門性を補完し合うチーム医療体制の構築が不可欠である.さらに,アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の早期導入,情報通信技術(ICT)を活用した遠隔連携や多職種合同カンファレンス,継続的な教育・研修体制の整備も,質の高い在宅支援の実現には重要な要素である.

一方で,現行の診療報酬制度や地域医療構想において,がん患者の在宅療養は明確に位置づけられておらず,人的資源やICT基盤の整備状況にも地域差が大きい.これにより,患者の意向に反して病院での最期を迎えざるを得ないケースも少なくない.

今後は,老年医学と腫瘍学の協働を中核に据え,多職種連携による包括的かつ持続可能な質の高い支援体制を構築するとともに,それを制度的・政策的に支える環境整備が急務である.さらに,高齢者総合機能評価やACPの有効性,多職種連携のアウトカムへの影響などに関する研究を推進し,エビデンスに基づいた実践と政策立案を支えることが求められる.

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