抄録
高血圧症の左心機能に対する加令の影響を明らかにするため20才から72才にいたる本態性高血圧者110人 (男71人, 女39人) と, 14才から87才にいたる健康な正常血圧者94人 (男73人, 女21人) について, 安静仰臥位にて色素稀釈法を用い, 血行動態的検索を試みた.
高血圧群において1回拍出量, 分時拍出量, 左室仕事量は正常血圧群と同様, 加令とともに減少するが心拍数と年令との間に有意な相関は認められない. 一方全末梢血管抵抗は加令とともに増加する. しかしながら加令に伴う血行動態因子の変化の度合いはいずれも両群間で有意差は認あられず, このことは高血圧者ではあっても正常血圧者同様, 循環系の生理的老化現象を等しく受けているのであり, とくに強く受けているものではないことを意味する.
正常血圧群において脈圧は青年期より年令とともにいったん減少し, 45才前後から再び増大する傾向がみられたのに対し, 高血圧群においてはかかる傾向は認められず, 脈圧は若年より老年を通じ終始高値を示している. このことは arterial capacitance になんらかの異常が早期から生じており, 高血圧症の原因的因子の一つでありうることを示唆する.
また本研究から本態性高血圧症の血行動態上のパターンは若年者で high flow-slightly high resistance, 老年者では normal flow-high resistance であると考えられる.