日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
Werner 症候群の1剖検例
石井 壽晴細田 泰弘
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1974 年 11 巻 6 号 p. 408-415

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抄録

老化過程研究の好個のモデルと考えられる Werner 症候群の1剖検例を報告した. 患者は男性で, 思春期前後より漸次, 嗄声, 足底部皮膚硬化, 両側若年性白内障を来たし, 高血圧にて入院. 既往歴も勘案し本症の診断を受けて加療中, 29歳時に心, 腎不全にて死亡. 家族歴で, 両親はいとこ同士の結婚であるが, 同胞には本症を疑わせる者はいなかった. 検査所見では, 心, 腎不全を思わせる以外に, 内分泌機能も含め, 特記すべき事はなかった.
剖検所見は外見上, 禿頭, 白髪, 顔面皮膚の萎縮のため, 年齢よりはるかに老けてみえた. 下腹, 下肢には, 色素沈着を伴う皮膚萎縮, 足底部皮膚硬化, 左眼義眼装着, 右眼白内障術後状態, 腋毛, 恥毛脱落, 精巣および陰茎萎縮を認めた. 心血管系は心肥大 (450g), 年齢に比して高度の大動脈粥状硬化症, 全身の高度の動脈および細小動脈硬化症をみた. ことに, 脳, 膵, 前立腺では, pseudocalcification および Mönckeberg 型動脈硬化症を呈した. 腎は高度の細小動脈硬化性萎縮腎 (左84, 右77g) の他, 悪性腎硬化症を思わせる所見もみた. その他, 内分泌臓器の萎縮 (下垂体0.5g. 甲状腺8g, 副腎左右各6g, 膵52g, 精巣左8, 右9g), 前立腺萎縮をみた. は, 骨梁の細小化, 声帯の萎縮, 胸腺退縮を認めた. なお, 悪性腫瘍の合併はなかった.
既剖検報告を通覧すると, 全般的に強皮症様皮膚萎縮, 動脈硬化症, 内分泌・生殖器臓器の萎縮が認められ, 本例でも同様の変化をみた. 特に本例の細小動脈硬化症は特徴的であった. また, 既報告中, 甲状腺腺腫および類縁腫瘍の高頻度な事も指摘したい. 本症は, 特定臓器の欠陥に起因すると考えられる組織学的ならびに諸種検査上の所見に乏しく, 形態学的な変化は, 本症の本態を示すものではなく, 2次的表現と考えられる. 特に, 眼, 皮膚, 血管, 骨, 声帯, 内臓諸臓器とともに, 常に存在する結合織に着目したい. 就中, 従来より知られる血清, 尿中のムコ多糖, 培養線維芽細胞の態度などより, subcellular な障害が考えられ, 結合織代謝と老化という点から, なお追求されるべきであろう.

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