日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
脳血管障害の心電図異常
福井 俊夫岡島 重孝佐藤 菅宏甘 慶華服部 光男内藤 弘一
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1975 年 12 巻 6 号 p. 380-385

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抄録

脳血管障害患者において種々の心電図異常が知られているが, これらの所見の中には脳血管障害によって出現したものと, 基礎にある高血圧, 動脈硬化に起因するものが混在していると考えられる. そこで, 今回脳血管障害50例を対象に心電図変化を検討し, 性および年齢分布を同じくした高血圧群および, 正常血圧群それぞれ50例の心電図と比較して脳血管障害による心電図異常を老年性および高血圧性の心電図所見から分離検討することを試みた.
脳血管障害群では41例82%にECG上何らかの異常所見が認められたが, 他の群に比して脳血管障害群に多い所見としては1分間50以下の徐脈とQTの延長が認められた. LVH, ST低下, AVブロックおよび心房細動は, 正常血圧群に少ないが, 高血圧群と脳血管障害群の間にはその出現率に差が認められなかった. 従ってこれらの所見は高血圧に起因する要素が大きいと考えられるが, LVHおよびST低下の所見は脳血管障害の改善と共に消失したものも認められた. 全例を60歳以下と61歳以上に分けて検討すると, 正常血圧群では若年者に不整脈をみないのに対し, 脳血管障害群では60歳以下でも25%に不整脈の出現をみており, 脳血管障害発作が不整脈発生に何らかの関与をもっていることが考えられる. 予後についてみても, 上室性頻拍, II度以上の房室ブロック, 心房細動, 上室性期外収縮, QT延長などを示した脳血管障害例は予後不良のものが多く, 特に脳血管障害後出現した不整脈例は全例が死亡している. これに対してLVHおよび心室性期外収縮を認めた例の死亡率は脳血管障害全例の死亡率とほぼ同率であった. くも膜下出血で巨大陰性T波もしくは心筋硬塞波形を示した症例は認められなかったが, 脳出血の1例で心電図上心内膜下硬塞所見を呈し, 剖検で心内膜下出血を認めた症例を経験した.

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