日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
加齢に伴う脳脊髄液中GABA濃度の変動に関する研究
黒田 広生小川 紀雄貫名 至太田 善介
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1983 年 20 巻 6 号 p. 500-505

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抄録

Alzheimer 病に代表される痴呆を主徴とする疾患や Huntington 病, Parkinson 病などの不随意運動を伴う疾患において, 脳内γ-アミノ酪酸 (GABA) 代謝の異常が指摘されている. 近年の人口の高齢化に伴い, 軽度の不随意運動や知的レベルの低下を呈する老齢者の増加が認められ, これらの老年者においても脳内GABA代謝に何らかの異常の存在することが予想される. そこで今回, 脳内GABA代謝に与える加齢の影響について研究する目的で, 脳内のGABA代謝異常を鋭敏に反映すると考えられている脳脊髄液中GABA (CSF-GABA) 濃度を各年代について測定し, 比較検討を行った.
対象は健常人ボランティアおよび神経・精神疾患を有さね患者, 総計34名 (内訳: 男19名, 女15名). 年齢は21歳から81歳におよび, 平均年齢は49歳であった. CSF-GABA濃度測定にはGABA radioreceptor assay (GABA-RRA) 法を用いた.
その結果, コントロール群 (20代および30代) のCSF-GABA濃度131±7.5pmoles/ml (mean±SEM) に比し, 50代, 60代, 70代, 80代の対象群のCSF-GABA濃度は有意な低下を認め, 特に70代ではコントロール群の50%, 80代では30%と著しい低値を示した. しかし, 40代では有意差は認めなかった. CSF-GABA濃度と年齢との間にも有意な負の相関関係が認められた (p<0.01). しかもこの関係は男性群, 女性群ともに成立し, 女性群においてより著明であった.
これらの結果は, 年齢が進むにつれて脳内GABA代謝に著しい変化が起こることを示しており, 高齢者ほど脳内GABA代謝異常に伴う種々の症状が発現しやすい状態にあることを予測させるものであった.

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