日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
高齢者の悪性新生物に関する研究
70歳以上の連続剖検例についての臨床病理学的検討
今村 司西原 康雄石井 惟友
著者情報
ジャーナル フリー

1986 年 23 巻 6 号 p. 588-593

詳細
抄録

鞍手共立病院において, 昭和39年11月より昭和55年10月までの16年間に1,000例の剖検が行なわれ, うち70歳以上の例が631例 (男284例, 女347例) あった. うち悪性新生物を有していたものが126例 (男68例, 女58例) あり, 悪性新生物にて死亡した群と, 死因に関与しなかった群に大別して臨床病理学的に検討し, 以下の結果を得た.
1) 悪性新生物にて死亡した例は男43例, 女40例の計83例であった. 男では肺癌と胃癌の例が最も多く, それぞれ11例であり, 次いで前立腺癌4例, 胆嚢癌, 結腸直腸癌, 食道癌が各々3例であった. 女では肺癌が13例と最も多く, 次いで胃癌8例, 担嚢癌, 結腸直腸癌が各々4例, 腎癌3例であった.
2) 悪性新生物にて死亡した例のうち, 主たる癌について, それらの組織型をみると, 肺癌では男11例中6例が扁平上皮癌で, 次いで腺癌2例であった. 女は13例中5例が扁平上皮癌で, 腺癌が4例あった. 胃癌では男11例中8例が腺癌で, 3例が未分化癌であった. 女は8例中5例が腺癌であり, 3例が未分化癌であった. 胆嚢癌と結腸直腸癌は男女ともすべて腺癌であり, 腎癌は全例腎細胞癌であった.
3) 死因に関与しなかった悪性新生物を有していた例は男25例, 女18例の計43例であった. 男では前立腺癌が10例で最も多く, 次いで胃癌5例, 肺癌4例, 甲状腺癌3例であった. 女では甲状腺癌が9例と最も多く, 次いで胃癌, 肺癌, 膵癌が各々2例であった.
4) 重複癌の例が10例あったが, 肺癌と胃癌の組み合わせが, 術後の例も含めると5例と最も多かった.
高齢者の疾患は複数の病気を有していたり, 症状が乏しかったり, 非定型的であったりして, つい診断が遅れがちであるが, 今後悪性新生物による死亡が増加すると考えられるので, 老人の悪性新生物に対しては早期診断と適切な治療が必要と考えられる.

著者関連情報
© 社団法人 日本老年医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top