日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
老化機構と早老症
熊原 雄一
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1988 年 25 巻 1 号 p. 1-6

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抄録

老化は複雑なプロセスを経て起こると考えられるが, 老化のメカニズムはこれまでプログラム説とエラー破綻説とを中心に, 突然変異説, 遊離基説, 架橋結合説など多くの説が出ているが, いずれも実証されていない. 部分的早老はいくつかの疾患でみられる現象であるが, Hutchinson-Gilford プロジェリア症候群, Werner 症候群, Cockayne 症候群など代表的な遺伝的早老症について概説し, 自然突然変異の起こし易さ, および遺伝子の修復能力について基礎的検討を行った.
6チオグアニン耐性を指標とした突然変異の検討では, 正常人では末梢血リンパ球において加齢と共に自然突然変異率が増加するが, Werner 症候群では末梢血リンパ球のみならず, 株化線維芽細胞においても正常対照に比して約10倍以上に増加していた. さらに突然変異の様式について, サザンブロット解析により検討したところ, Werner 症候群では正常対照に比して広範囲欠失をおこしやすいことが明らかとなった. したがって Werner 症候群ではDNA複製の異常が早期老化と密接な関係を有するものと思われた. Cockayne 症候群は紫外線高感受性を特徴として, DNA修復に異常がある. Cockayne 症候群由来株化線維芽細胞に, リボヌクレオチド還元酵素遺伝子のcDNAを導入したところ, 紫外線感受性が部分的に回復した. リボヌクレナチド還元酵素はDNA修復ではなく, DNA前駆体であるデオキシリボヌクレオリド合成の律速酵素であることから, Cockayne 症候群はDNA複製合成再開の調節遺伝子に異常があると推測された. さらに早老症の原因と, DNA修復複製過程との関係を示し, 老化機構に対する早老症の位置づけを試みた.

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