日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
老年者糖尿病の診断基準に関する検討
生命予後および心・脳血管病変の面より
久保 雅博大庭 建三春山 勝武内 寛平井 真明中野 博司渕上 正章野崎 太矩祠妻鳥 昌平盤若 博司板垣 晃之早川 道夫大友 英一
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1988 年 25 巻 2 号 p. 147-152

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抄録

老年者の糖尿病の経口ブドウ糖負荷試験 (OGTT) の判定に, 日本糖尿病学会委員会勧告値 (学会勧告値) を適応した場合の問題点を明らかにする目的で, 浴風会老人ホームに在住し, 生前に50g OGTTを実施し, 死後剖検し得た451例 (男144, 女307例) について耐糖能別の生命予後および剖検所見による心・脳血管病変の合併頻度を検討した. 耐糖能は学会勧告値に従い正常型, 境界型, 糖尿病型群に分類し, さらに糖尿病型群については空腹時血糖値140mg/dl未満のものをDM1群, 140mg/dl以上のものをDM2群に分類し, 計4群とした. OGTT実施時年齢が75歳未満, 60歳以上であった老年前期群では, DM2群の生命予後は最も不良であり, 心筋梗塞, 高度脳動脈硬化, 脳梗塞およびこれらのいずれか1つ以上の病変を有するものの頻度は最も高率であった. 一方, DM1群はその生命予後およびいずれの動脈硬化性病変の合併頻度も境界型群に近似し, 正常型群とDM2群の中間に位置した. OGTT実施時年齢が75歳以上の老年後期群では耐糖能別にその生命予後およびいずれの動脈硬化性病変の合併頻度にも差がみられなかった. 以上の成績は, 学会勧告値のOGTTによる糖尿病の判定基準を耐糖能異常の生命予後および心・脳血管病変に及ぼす影響の面から見るならば, 老年者では空腹時血糖値140mg/dl以上のものとし, 140mg/dl未満の糖尿病型群は境界型群と範畴を同じくするものとして対処していくのが臨床的立場からすれば実際的であることを示している. また, 70歳半ばを過ぎて見られる耐糖能異常は生命予後および動脈硬化病変の進展に大きな影響を及ぼさないことが示唆された.

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