日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
老年者糖尿病の診断とコントロールの基準値
服部 明徳折茂 肇
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1993 年 30 巻 4 号 p. 260-265

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抄録

老年者糖尿病患者では口渇などの自覚症に乏しく, 検査によって始めて糖尿病と診断される場合が多い. 老年者での糖尿病の診断基準は若年者と同じでよいのであろうか. また自覚症に乏しい老年者での糖尿病のコントロールは, どの程度とすべきであろうか.
われわれは老年者糖尿病患者での外来臨床所見と糖尿病性網膜症および虚血性心疾患の発症との関連について検討し, 老年者糖尿病患者の診断基準・コントロール基準について考察した.
糖尿病性網膜症の発症に関する横断調査および追跡調査での検討では, 初診時の空腹時血糖値が140mg/dl以上の症例で, 糖尿病性網膜症の発症頻度は有意に高値となった. 老年者においても空腹時血糖値が140mg/dl以上は糖尿病と診断して差し支えないと考えられる.
また初診時に網膜症を認めず, 5年以上にわたって糖尿病性網膜症の有無を追跡しえた108例での検討では, 外来の空腹時血糖値が140mg/dl以上の症例において, 糖尿病性網膜症の頻度は有意に高値となった. 糖尿病性網膜症を防ぐという観点からは, 糖尿病のコントロール基準は空腹時血糖値で少なくとも140mg/dl以下とすべきであると考えられる.
また老年者糖尿病患者では虚血性心疾患が多発するが, 老年者糖尿病患者における7年間での追跡調査では, 高血圧・高脂血症および高血糖が虚血性心疾患発症の独立した危険因子であった. 虚血性心疾患の発症という観点からも老年糖尿病患者での血糖コントロールは重要であると考えられる. また老年者糖尿病患者の治療の際には, 血糖のコントロールだけでなく, 高血圧・高脂血症に関しても注意が必要である.
以上のように, 糖尿病合併症の予防という観点からは, 老年者においても糖尿病の診断基準やコントロール基準が若年者とあまり異なるわけではないと考えられる.

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