1993 年 30 巻 5 号 p. 387-392
81歳, 女性, Parkinson 病として加療8年後に誤嚥性肺炎にて入院. 気管切開後一時肺炎は改善したが, 嚥下困難及び筋固縮強く, その後も誤嚥を繰り返した. 長期臥床状態で, ECドパールなど Parkinson 病薬3種, 鎮咳薬・抗菌薬, 抗結核薬など5種の経口薬物投与と胃管栄養により管理されていたが, 突然ショックとなり, 緊急輸血を受けた. 翌日の内視鏡検査で, 胃内に大量の凝血塊を認めたが出血源の同定は不可能であった. ショックより5日後再度大量吐血し急死に終わった. 剖検で, 食道上部気管分岐部の高さに, 2個の縦走潰瘍を認め, その1つに大動脈食道瘻の開口が確認された. 潰瘍周囲の食道粘膜はほぼ正常で, 食道癌や食道内異物はなく, 大動脈の動脈硬化は軽度で, 瘻孔内面は食道上皮で被覆されているので, 薬物の停滞に起因する慢性食道潰瘍の進展が, 隣接する大動脈との間の瘻孔形成の病因と推定された. 本疾患は稀であるが, 長期臥床の高齢者への経口薬投与の際は, 薬物性食道潰瘍の発生を念頭において, 注意深い看護が必要であることを示す症例と考えられた.