抄録
成人の正常血圧の上限は139/89mmHgとされているが, この上限が老人にも適用できるとは限らない. 本報告では,「老人の臨床検査の正常値に関する調査研究」の下部組織「血圧小委員会」が調査した健常老人の血圧値について述べ, 一部の委員が行った追跡研究の成績を借りて, 老人の血圧値の正常範囲の上限について考察する.
(1)65歳以上, (2)脳・心合併症がない. (3)独立独歩生活可能, (4)痴呆がない, (5)貧血, 肝障害, 腎不全, 薬物を必要とする糖尿病, 肺機能障害, 弁膜症, 著明な不整脈がない, (6)神経, 運動器疾患で500m歩行不能の者は除く, の条件を満たした65~94歳の老年者2,008例のなかから, 降圧薬を服用しておらず, 肥満・るいそうがなく, 心電図異常所見がない者, 663例を選び, これを正常にもっとも近い老人の集団とした. この集団の血圧は, 男 (318例) 133.3±18.9/77.0±10.6mmHg, 女 (345例) 134.3±18.7/75.7±10.2mmHgであり, 1990年度に実施された循環器疾患基礎調査の中の65~94歳の同等の集団の血圧, 男 (288例) 142.0±19.2/81.7±10.0mmHg, 女 (370例) 143.0±18.2/79.1±10.4mmHgより低値であった. 血圧小委員会委員の追跡調査から推定した老人の正常血圧値の上限は, 収縮期血圧140~150mmHg, 拡張期血圧80~89mmHgである.