日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
7; 11転座を呈し, Cytosine arabinoside (Ara-C) 少量療法と Cytarabine ocfosfate (SPAC) により完全寛解に達した治療誘発性急性非リンパ性白血病 (M2) の1例
志越 顕志越 和子新津 望高田 雅史梅田 正法
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1994 年 31 巻 6 号 p. 468-471

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抄録

症例は70歳女性. 平成3年2月肺癌にて手術後, Etoposide (VP-16) および Carboplatin (CBDCA) の併用化学療法を13カ月にわたって施行される. 平成4年11月頃より動悸, 息切れが出現し, 血液検査にて貧血および血小板減少を認め, 精査目的にて入院. 末梢血液像上16%, 骨髄像上41.2%のペルオキシダーゼ陽性の芽球を認め, 治療誘発性急性非リンパ性白血病 (t-ANLL), FAB分類, M2と診断した. 骨髄細胞の染色体分析では46, XX, t(7; 11) (p13; p15), 16p+の核型を呈した. Cytosine arabinoside (Ara-C) 少量療法, および Cytarabine ocfosfate (SPAC) の投与にて完全寛解を得た.
本症例はトポイソメラーゼII阻害剤であるVP-16によるt-ANLLと考えられ, 染色体分析で転座型核型を呈していた. アルキル化剤誘発のt-ANLL症例では7番染色体短腕異常を含む不均衡型異常を呈することが多いとされており, 染色体所見の相違から両者の発症機序の相違が示唆され, 詳細な細胞遺伝学的検索がt-ANLLの発病メカニズム解明に寄与するものと考えられた. また, 切断点である11p15には癌遺伝子であるH-RAS1が局在しており, 転座による活性化が発症に関与した可能性も含め, 遺伝子学的検討も病因解明の上で必要と思われた.
また, t-ANLLは治療抵抗性で予後不良とされるが, 高齢者は合併症の存在や, 骨髄抑制などの化学療法の副作用が出現しやすく寛解を得にくいことから, 高齢者t-ANLLに対しては本症例のようにAra-C少量およびSPACの経口投与などの副作用を軽減し, 分化誘導を期待できる治療を施行することが有用と考えられた.

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