日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
多彩な出血症状を呈した抗第VIII因子抗体陽性の非血友病高齢者の1例
定方 宏人谷田部 寛篠崎 忠利楢原 伸裕成清 卓二土屋 純
著者情報
ジャーナル フリー

1995 年 32 巻 1 号 p. 47-50

詳細
抄録

症例は81歳, 男性. 血尿, 皮下出血斑が認められ, 精査加療目的にて1992年12月当院に入院した. 入院時四肢, 体幹に広範な皮下出血があり, 血尿も認めた. 入院後さらに右頬部, 頸部の皮下出血, 口腔内及び咽頭血腫が出現した. 凝固時間20分以上, APTT108.6秒と著明に延長を認め, 第VIII因子活性は4%と著減していた. 抗第VIII因子抗体は65.0 Bethesda Unit/ml (以下BU) と高値を示した. 血清生化学的に異常なく, 基礎疾患を疑わせる所見はなかった. 以上より本例は高齢者に発症した後天性血友病と診断された.
血腫による気道狭窄がみられ, 早急な治療が必要とされたため, 血漿交換 (Plasma Exchange, 以下PE) を施行し, 終了後に第VIII因子製剤2,000単位を投与した. また Prednisolone (以下PSL) を開始した. 治療後抗体活性は低下し, 各出血部位の症状所見も改善した. PSL投与開始3週目に一時悪化したため再度PEを施行し, Cyclophosphamide (以下CPM) を追加した. 以降出血も認めず, 入院約1カ月後に因子活性は正常化し, 抗体も陰性化した. 経過中慢性硬膜下血腫によると思われる全身性痙攣が出現したが, 抗痙攣剤の投与にて軽快し, 翌年3月退院となった.
外来では問題なく経過していたが, PSLを減量後, 8月より血痰, 血尿が出現し再入院となった. 第VIII因子活性は21%, 抗体は3.0BUであった. 入院後, PSLを増量したところ, 出血症状は消失し, 因子活性も正常化, 抗体も陰性化した.
多彩な出血症状を呈し, 抗第VIII因子抗体の除去と産生を抑制する目的で施行した血漿交換療法と免疫抑制剤療法が有用であった症例と考え報告した.

著者関連情報
© 社団法人 日本老年医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top