抄録
高齢者心房中隔欠損症 (ASD) の自然予後や手術至適時期については現在統一した見解が得られていない. そこで, ASD根治術の効果が手術施行年齢により如何なる修飾を受けるかを明らかにするため, 高齢者ASD群と若年者ASD群との術前血行動態諸指標および術後経過を比較検討した. 対象は50歳以上でASDの根治術を受けた11名 (高齢者ASD群) [男性5名, 女性6名, 平均年齢58±5歳] であり, 50歳未満でASDの根治術を受けた8名 (若年者ASD群) [男性5名, 女性3名, 平均年齢38±6歳] を対照とした. 術前の血行動態諸指標として, 収縮期肺動脈圧, 左→右シャント率, 肺体血流比, 肺体血管抵抗比および欠損孔サイズを計測した. 自覚症状, 心胸郭比の変化は術前と術後3カ月の時点で比較した. その結果, 1) 高齢者ASD群では若年者ASD群に比し, 心房細動の合併頻度 (27%対0%) が高率であった. 2) 血行動態諸指標および欠損孔サイズは両群間で差を認めず, 年齢との間には相関はなかった. 3) 手術死亡は両群とも認めなかった. 術後自覚症状は全例で改善を示したが, 術前心房細動を合併しでいた高齢者ASD 3症例では労作時の息切れなどの症状が術後も残存した. 4) 高齢者ASD群の心胸郭比は術前高値 (58±4%) を示し, 60歳以上で根治術を受けた3例では術後3カ月の時点でも縮小を認めなかった. 術前の心胸郭比は両群間に有意差を認めず, 術後3カ月の心胸郭比は若年者ASD群で高齢者ASD群に比較し有意に小さかった.
高齢者心房中隔欠損症の中には根治術にもかかわらず術後の自覚症状, 心拡大の改善度が小さい症例が認められた. したがって, できる限り若年での根治術の施行が望ましいと考えられた.