抄録
乳び胸水を来たした甲状腺乳頭状腺癌の2症例を報告した. 症例1: 85歳, 女性. 乳び胸水による呼吸困難により入院. 左頸部に2×2cmの腫瘤を触知し, 生検により甲状腺乳頭状腺癌と診断. 画像上, 甲状腺癌が気管分岐部の高さにまで浸潤していることから, 胸管破壊により乳び胸水を来たしたと考えられた. 症例2: 53歳, 女性, 剖検例. 34歳及び49歳時に乳び胸水で入院, その際甲状腺機能低下症・副甲状腺機能低下症の診断を受けている. 52歳時再度乳び胸水による呼吸困難にて入院, 1年後, 敗血症合併により死亡. 剖検にて甲状腺乳頭状腺癌とその Virchow リンパ節への転移と判明. 胸管は大動脈弓部から静脈角の部分で瘢痕化した索状物として認められた. これは, 早い時期からすでに Virchow リンパ節への転位が存在し, 胸管はその影響で閉塞と再疎通または側副路形成を繰り返したが, 最終的に完全閉塞したものと考えられた. 甲状腺乳頭状腺癌における乳び胸水の合併は著者の検索しえた範囲では文献的にも無く極めて稀な病態と考えられたので, 考察を加え報告した.