日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
近位尿細管障害を伴った老年者多発性骨髄腫の1例
土井 研人寺本 信嗣細井 孝之宮尾 益理子松瀬 健鳥羽 研二大内 尉義
著者情報
ジャーナル フリー

1998 年 35 巻 6 号 p. 477-481

詳細
抄録

老年者に好発する多発性骨髄腫は, 骨髄腫腎としてしばしば遠位尿細管障害を伴うことが知られている. 今回, 老年者多発性骨髄腫症例において, 比較的稀な近位尿細管障害を合併した症例を経験したので報告する.
症例は, 73歳, 女性. 1996年10月に健診にて骨量減少を指摘され, 当科外来にて経過観察されていたところ, 1997年3月より易疲労感と食欲低下, 体重減少を来した. 4月17日の受診時には, 昨年11月に比べて血中ヘモグロビン濃度の低下及びクレアチニン濃度の上昇を認めた為, 精査目的にて当科入院となった.
入院時検査所見にて, 正球性正色素性貧血と低蛋白血症が認められた. 骨X線上では, 全体的な骨量減少を認めるが, 頭蓋骨・骨盤骨などに骨融解像は認めなかった. 腎機能については, 入院時に Anion gap 正常, 高Cl性代謝性アシドーシスが存在し, NH4Cl負荷テストを施行したところ, 尿細管性アシドーシス (近位型) と診断された. 血清蛋白の電気泳動ではM蛋白は認めず, γ分画の低下を認めた. 尿蛋白電気泳動ではβ~γ分画にM蛋白を認め, 免疫電気泳動にて Bence Jones Protein-λ型M蛋白が同定されたため, 多発性骨髄腫が疑われた. 骨髄穿刺では, 成熟型の形質細胞の集簇を認めるが細胞異型は明らかではなかったが, 全体像より多発性骨髄腫と診断しMP療法を施行した. 低γグロブリン血症は改善されなかったが,尿中 free light chain 量は低下しており, 生体内の骨髄腫細胞は減少していると判断した.
本症例では, Bence Jones 蛋白による近位尿細管上皮細胞の傷害からII型の尿細管アシドーシスを来したと考えられた.

著者関連情報
© 社団法人 日本老年医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top