日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
PDGFとPDGF受容体
森 聖二郎
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1999 年 36 巻 7 号 p. 457-465

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抄録

PDGFは血小板中に存在し, 主として間葉系細胞に対し増殖・遊走刺激活性を有する因子として同定された. PDGFは構造の類似したA鎖とB鎖のダイマーであり, 受容体も構造の類似したαとβの2種類が同定されている. 受容体は細胞内領域にチロシンキナーゼ活性を有する膜1回貫通型の膜蛋白で, リガンド非存在下ではモノマーとして存在する. 受容体の活性化はリガンド結合による受容体のダイマー化によって開始され, 細胞内領域がチロシンキナーゼによって自己リン酸化され, それに伴い受容体キナーゼ活性が上昇する. そして, 種々のシグナル伝達因子が自己リン酸化した受容体と会合し, 複合体をなして機能する. 活性化した受容体の細胞内情報伝達メカニズムについては, 核へのシグナル伝達経路として, 受容体が直接的に, あるいはShcないしSHP-2を仲介して間接的にGrb2/Sos複合体をリクルートする古典的Ras活性化経路とともに, Srcの活性化からMycの誘導に至る経路, さらにはStatのリン酸化を介する経路などが想定されている. 一方, 細胞骨格へのシグナル伝達経路としては, ホスファチジルイノシトール3キナーゼからRacを活性化する経路とともに, Rasからp38 MAPキナーゼを活性化する経路が, いずれもPDGF刺激によるアクチン再構築や細胞遊走に関与していることが知られている. 活性化した受容体はポリユビキチン化され, プロテアソームにより速やかに分解されシグナル伝達は終了する. ノックアウトマウスから得られた知見として, PDGF-B鎖ならびにβ受容体はメサンギウム細胞ならびに周細胞の発生に, A鎖は肺胞平滑筋細胞の発生に, α受容体は筋板の発生ならびに神経堤由来非神経細胞のアポトーシスの抑制に重要であることが明らかとなった. PDGFは動脈硬化発症過程において重要な働きをしているのみならず, 各種腫瘍細胞において遺伝子変異による過剰発現, あるいは構造変化により形質転換能を獲得した異常分子の発現を介して, 腫瘍細胞の自律性増殖能獲得さらには悪性化にも寄与している.

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