2000 年 37 巻 2 号 p. 126-129
ヒト老化の起源を探る目的で, 遺伝的な研究を背景に老化に関連する遺伝子を探索した. 実験動物としてセンチュウ (C. エレガンス) を使用し, 活性酸素の産生で知られるメチルビオロゲン (パラコート) に高感受性な変異体を検索した. 得られた突然変異体をmev-1と命名した. この変異体は2つの特性をもっていた. 第一は, 短寿命であること. 第二は, 飼育環境の酸素濃度を通常濃度以上に上げると非常に死にやすいこと. 遺伝子研究から変異遺伝子はミトコンドリアのスクシネート脱水素酵素のチトクロームbの構造遺伝子であることがわかった. mev-1はこの変異のゆえに水素伝達系に異常を生じ, ミトコンドリアに過剰の活性酸素を産生するものと予測された. そこでmev-1の短寿命化は酸素と関連することが明らかで, 老化-酸素説を支持した.
老化の起源が酸素にあるということは, 動物の生存に必須の酸素が同時に動物の個体を傷めていることを示し, 言い換えると動物は「生きることによって老化する」のである. この二律背反は壮大な生命の掟であるとも言い得るであろうか.