2000 年 37 巻 2 号 p. 137-142
動脈壁の加齢変化として動脈硬化があり, その評価としてB mode 法や Doppler 法による形態・血流動態評価が行われている. しかしプラークの組織性状を臨床上定量的に評価した報告はない. 本研究では, 超音波後方散乱信号を画像処理せず組織本来の音響特性を反映するとされる Integrated backscatter (IBS) の解析を, 一般にその病理所見が大きく異なる若年健常者の頸動脈と, 複数の動脈硬化危険因子を持つ高齢者の頸動脈について比較することにより, プラークの組織性状診断への臨床的有用性を検討した. 対象は, 若年健常者8名 (27部位, 平均25歳) 及び高齢者11名 (55部位, 平均75歳). 総頸動脈分岐部近傍にてB mode 像及びIBS像を記録し, 内膜中膜複合体厚 (IMT) と, 同部位のIBS値を計測した. 相対値であるIBS値の補正対象物として血管内腔のIBS値を用いた. IMT及び補正IBS値は高齢者 (IMT: 1.08±0.07mm, IBS: 11.7±0.8dB) において若年健常者 (IMT: 0.54±0.03mm, IBS: 6.9±0.7dB) と比べいずれも有意に高値であった. 同一被検者内の補正IBS値は, 若年健常者においてはSDが小であった (1.7±0.3dB)のに対して, 高齢者においては同程度のIMTでもSDが大であり (4.2±0.9dB) 有意に幅広い分布を示した. 既に病理標本による検討から, 同様のIMTを示す領域においてIBS値により, 線維性, 粥腫性プラークの鑑別が可能であることが認められている. 高齢者の動脈硬化病変において, IBS値が高値でかつ分散が大であったことは, 線維性プラーク成分が多いものの, 粥腫成分も含めた組織性状の多様性を反映するものと考えられる. 本法は高齢者における動脈硬化病変の非侵襲的かつ定量的な評価法となりうることが示唆された.