日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
脳血栓初発後の痴呆, ADL低下とそのMR画像, 合併症
岩本 俊彦清水 武志阿美 宗伯米田 陽一今村 敏治高崎 優
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キーワード: 脳血栓症, MRI, 痴呆, 予後
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2000 年 37 巻 2 号 p. 162-169

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抄録

脳血栓症後の知的機能, 日常生活動作能力 (ADL) が発症時のMRI所見や臨床経過とどのように関連しているのかを知る目的で, 60歳以上の初発脳血栓で, 発症3カ月目に登録された98例を5年間追跡調査した. このうち解析対象となった5年生存例は65例あり, 登録時の平均年齢は72.0歳, 男44例であった. MRI所見は責任病巣の他, 随伴所見としてPVH (periventricular hyperintensity) の広がり, 深部点状病変, 無症候性脳梗塞, 脳室拡大, 皮質萎縮を検討した. 知的機能は改訂長谷川式痴呆スケール, DSM-III-Rにより痴呆の有無を評価し, 痴呆の程度は Clinical Dementia Rating に準じて「なし」,「軽度」,「中等度以上」に分類した. 一方, ADLの程度は Rankin scale に準じて「自立」,「半介助」,「全介助」に区分した. また, 経過中の合併症では脳卒中再発の他, 肺炎, 大腿骨頸部骨折, パーキンソニズム, 硬膜下血腫, 閉塞性動脈硬化症の進行を調査し, 肺炎以外の疾病は運動障害性疾患として一括した. 痴呆は評価し得た77例のうち軽度が30例, 中等度以上が14例あった. 5年間に知的機能が低下した12例の特徴は, 不変群に比して高年齢で, 既に軽度の痴呆, ADL低下がみられた. MRI所見では広範なPVHの頻度も高く, 経過中の肺炎, 運動障害性疾患が高率であった. 一方, 登録時ADLは半介助, 全介助が各々46例, 22例あり, その後5年間にADLが低下した17例では登録時, 痴呆, ADL低下例が多かった. MRI所見では皮質枝系梗塞, 中等大以上の病巣, 広範なPVHの頻度が高く, 経過中に肺炎, 運動障害性疾患が多くみられた. 重回帰分析の結果, 痴呆の進展には広範なPVH, 経過中の肺炎が, また, ADLの低下には登録時の知的機能, 経過中の肺炎や運動障害性疾患が寄与していることが示され, 脳血栓症慢性期例の機能予後を考えた場合, 広範なPVHや合併症, 特に肺炎に注意すべきと考えられた.

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