日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
長期経腸栄養患者の銅欠乏に対する, ココアによる銅補充及び維持療法の検討
湧上 聖末永 英文江頭 有朋平 敏裕渡嘉敷 崇山崎 富浩前原 愛和上地 和美
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2000 年 37 巻 4 号 p. 304-308

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抄録

長期経腸栄養患者に銅欠乏が出現することが時々報告され, 貧血及び好中球減少症を伴うことがある. ある種の経腸栄養剤の銅含量が少ないことが原因で, 治療は硫酸銅や銅含量が多い経腸栄養剤で行われている. 今回, 食品である銅含量の多いココアを用いて銅欠乏の治療を行い, 銅の必要量を検討してみた. 当院に平成10年に入院していた経腸栄養患者86人を対象とした. 男性40人, 女性46人, 平均年齢69歳であった. 基礎疾患は脳卒中71人, 神経疾患5人, その他10人であった. CBC, 電解質, 腎・肝機能, 総蛋白, コレステロール, 血清銅 (正常値78~136μg/dl) を全症例に検査した. まず, 血清銅が20μg/dl以下の8症例に対して, ココアを一日30~45g (銅1.14~1.71mg), 血清銅が77μg/dl以下の31症例に対してはココアを一日10g (銅0.38mg) 経腸栄養剤に混注して1~2カ月間投与した. ココアの量が30~459の8症例の内, 2例が嘔吐と下痢で中断した. 残り6症例は血清銅が平均8.7±6.2から99.0±25.4μg/dlと有意に改善した. ココアの量が10gの31症例は血清銅が平均50.5±19.3から89.0±12.9μg/dlと有意に改善した. 銅欠乏に伴う貧血及び好中球減少も改善傾向がみられた. その後ココア10gで改善した23例についてココアを5g (銅0.19mg) に減量したところ, 平均98±36日で血清銅は90.7±10.4から100.6±17.1μg/dlへ有意に上昇した. これまで成人の一日銅必要量は1.28~2.5mgとされていたが, 今回の結果から銅欠乏の治療に関してはココア一日10g, 銅として0.6mg (ココアの銅含量0.38mgと栄養剤の平均銅含量0.22mg), 維持についてはココア5g, 銅として0.37mg (ココアの銅含量0.19mgと栄養剤の平均銅含量0.18mg) で十分だと示唆され, 経腸栄養剤開発における銅含量の参考になると思われる.

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