日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
孤発性パーキンソン病の病因の探索
丸山 和佳子
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2001 年 38 巻 4 号 p. 494-497

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抄録

孤発性パーキンソン病の病因は不明であるが, ヒト脳内に存在するドパミン神経に選択的な神経毒の関与が示唆されている. N-メチル (R) サルソリノールはそのような神経毒の候補物質であり, ヒト脳内でドパミンから2段階の酵素反応により生成される. (R) サルソリノールからN-メチル (R) サルソリノールを生成する酵素である中性 (R) サルソリノール N-メチルトランスフェラーゼは, N-メチル (R) サルソリノール生成の律速酵素である. 未治療パーキンソン病患者の脳脊髄液の分析により, N-メチル (R) サルソリノール濃度がパーキンソン病患者で増加していることが示された. さらに, リンパ球中の中性 (R) サルソリノール N-メチルトランスフェラーゼ活性を分析したところ, パーキンソン病患者において本酵素活性の増加が認められた. 脳内中性 (R) サルソリノール N-メチルトランスフェラーゼ活性の増加は, 黒質ドパミン神経における神経毒, N-メチル (R) サルソリノールの増加を引き起こし, 長期間の蓄積の後に細胞死の原因となる可能性がある. 現在, 本酵素活性を規定する環境および遺伝因子につき検討が行われている.
N-メチル (R) サルソリノールによるドパミン神経細胞死の機序を培養細胞を用い検討したところ, 用量依存的にアポトーシスが惹起されることが示された. さらに, 近年その神経保護作用が注目されている propargylamine 化合物により, アポトーシスが抑制された. N-メチル (R) サルソリノールおよび propargylamine 化合物の作用点はミトコンドリアであることが示唆された. propargylamine 化合物は経口投与可能な神経保護薬として有用である可能性があると考えられた.

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