日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
高齢者感染症における抗菌薬の使い方
中村 茂樹宮崎 義継河野 茂
著者情報
ジャーナル フリー

2005 年 42 巻 2 号 p. 129-136

詳細
抄録

高齢者は加齢に伴う臓器機能, 生理機能, 免疫能の低下に加え, 糖尿病や心, 脳血管障害など多彩な基礎疾患を有するため感染症に罹患する機会が多く, しかも難治になりやすい. 特に肺炎は加齢に従ってその頻度が増加し, 90歳以上の高齢者では死因の第一位を占める. 高齢者は一般成人と比較し, 加齢による腎機能の低下と心拍出量の減少, 血清アルブミン低下に伴う遊離型薬物の増加, チトクロームP450による肝薬物代謝の低下などのため薬物動態 (PK/PD) が異なる. そのため高齢者の感染症に対し抗菌薬を使用する際は基礎疾患や発症の病態, 使用薬剤による副作用や相互作用などを十分考慮する必要がある. 抗菌薬の副作用は特にグリコペプチド系薬による腎障害, アミノ配糖体による腎障害, 第VIII脳神経障害, テトラサイクリン系薬の肝障害や造血器障害に注意が必要である. さらにキノロン系薬とNSAIDsを併用した場合やカルバペネム系抗菌薬は, けいれんを生じることがある. 高齢者肺炎は呼吸器, 免疫系統の加齢による低下に加え, 脳梗塞などの中枢神経疾患や胃摘出術などの既往によっても大きく影響を受ける. 高齢者では成人のような発熱, 咳嗽, 喀痰といった肺炎の典型的な臨床症状を呈さない場合も多く診断の遅れ重症化することもある. 治療は市中肺炎ガイドライン, あるいは院内肺炎ガイドラインに準じて抗菌薬を選択することが望ましい. 高齢者では特に誤燕性肺炎, MRSA感染症の頻度が高く, さらに基礎疾患としてCOPDを有している場合が一般成人と比較して多いことも特徴である. また高齢者感染症は難治性で, 反復しやすい. このため, まず感染症を予防することが重要であり, そのためには生活環境の衛生状態を改善し, インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチン接種を積極的に行うことが基本であると思われる.

著者関連情報
© 社団法人 日本老年医学会
次の記事
feedback
Top