日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
痴呆高齢者に対する嚥下障害のスクリーニング方法の検討
簡易嚥下誘発試験と反復唾液嚥下テストの比較
馬場 幸寺本 信嗣長谷川 浩町田 綾子秋下 雅弘鳥羽 研二
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2005 年 42 巻 3 号 p. 323-327

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抄録

嚥下障害のスクリーニングのために, ベッドサイドで実施可能な簡便な検査法がいくつか提唱されてきている. しかしながら, 痴呆を持つ高齢患者においては, それらの検査法の臨床的な有用性や限界について十分に検証されているとはいえない. 今回, 37例の入院患者 (平均年齢81.8±12歳) を対象として, 嚥下機能評価を, 反復唾液嚥下テスト (repetitive saliva swallowing test, 以下RSSTと略す) および簡易嚥下誘発試験 (simple swallowing provocation test, 以下SSPTと略す) を用いて実施し, 同時に認知能と言語コミュニケーション能力について, 改訂長谷川式簡易知能評価スケール (以下HDS-Rと略す) およびミニコミュニケーションテスト (以下MCTと略す) を用いて評価した. RSSTが実施できたのは22例のみであり (59%), 一方, SSPTは全例に実施可能であった. HDS-RスコアおよびMCTスコアは, RSST実施不可能群において, 実施可能群に比べ有意に低値を示した(HDS-R: 7±1 vs 15±3, p<0.01; MCT: 47±8 vs 81±5, p<0.01). また, RSSTにて異常反応は14例 (64%) に, SSPTでの異常反応は5例 (14%) に認められた. 異常反応を示した患者では, 認知能 (p<0.05) および言語コミュニケーション能力 (p<0.05) は有意に低下していた. また, SSPTにおいてむせのあるなしは, 認知能の影響がみられた. この結果より, RSSTは高齢患者における嚥下障害の検出に有用であるが, その適応については患者の認知能と言語コミュニケーション能力に影響されることが示唆された. 高齢者の嚥下障害についてその検査法を選択するうえで, 老年医学的総合評価を行うことは有用であると考えられた.

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