日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
Klotho マウス研究の進歩
黒尾 誠
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2006 年 43 巻 6 号 p. 674-681

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抄録

クロトー遺伝子は老化類似の表現型を呈する突然変異マウスの原因遺伝子として同定された. クロトー遺伝子は分子量約130kDの一回膜貫通蛋白をコードし, 主に腎臓の遠位曲尿細管と脳の脈絡叢に発現している. クロトー遺伝子欠損マウスは成長障害, 活動性の低下, 不妊, 胸腺・皮膚・骨格筋の萎縮, 動脈硬化, 肺気腫, 異所性石灰化, 骨粗鬆症など, 全身に多彩な老化類似の病態を発症して早期に死亡する. 逆にクロトー遺伝子を過剰発現するトランスジェニックマウスでは寿命が延長する. すなわち, クロトー遺伝子は老化抑制遺伝子として機能している可能性がある. クロトー過剰発現マウスは軽度のインスリン抵抗性と酸化ストレスに対する耐性を示す. これらは種を超えて保存されてきた長生きのメカニズムであり, クロトーによる寿命延長のメカニズムに関与している可能性が考えられた. 最近, FGF23欠損マウスがクロトー欠損マウスと良く似た多彩な老化類似の表現型を呈することが報告された. このことは, FGF23とクロトーが同じシグナル伝達系を使っている可能性を示唆する. FGF23は線維芽細胞成長因子 (FGF) ファミリーに属するホルモンで, 腎近位尿細管に作用してリンの再吸収を抑制する. 実際, クロトー欠損マウスもFGF23欠損マウスと同様, 高リン血症を呈する. 我々は, クロトー蛋白がFGF受容体と結合してFGF23に対する co-receptor として機能することを明らかにした. さらに, FGF23欠損マウスとクロトー欠損マウスに認められる老化類似の表現型の多くが, 高ビタミンD血症を是正することで改善することも報告された. これらのことは, クロトー蛋白が, インスリンシグナルや酸化ストレスの制御ばかりでなく, FGFシグナルやリン, ビタミンD代謝の調節を介して個体老化を制御するという新しい概念を提示している.

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