抄録
1) 苔類の一種ケゼニゴケの天然の種内倍数性植物 (n=9, 18, 27) の形態比較を行つた.
2) 本種内倍数体では染色体数の倍加に伴い多くの形質に量的増大が認められ, 質的差違は認められない.
3) 葉緑体の直径の大きさは倍数体においても増大しない.
4) 二倍体の形質の増大率は核, 細胞容積が一倍体の2倍にやや及ばない. 組織, 器官では一層増大率が減少し, 二三の形質の大きさは一倍体のそれに殆んど復帰する.
5) 三倍体の形質の増大率は核, 細胞積容が一倍体の3倍をやや越え, 組織, 器官では著しくこの増大率を増加する. 即ちこの三倍体では安定性と形質の大きさの増大率の減少とはかならずしも Wettstein (1925, '40), Darlington (1932) の云うような関係は認められない.
6) 本種内倍数体の安定性はゲノムの異質化に基くものであろう. そうして, それら形質の増大率は各倍数体を構成する同質及び異質ゲノムの量の比によつて定められたものであろう.