2020 年 82 巻 1 号 p. 89-147
傷害保険における外来性要件の判断枠組みは,近年の最高裁判決を契機に大きな争点となった。議論は深まりつつあるが,なお理論面で克服すべき課題が指摘されている。本稿では,従前の議論を深めることを目的に,平成19年の最高裁判決の判断枠組みの源流といえるドイツ法の解釈をリサーチし,日本法の解釈に与える示唆について検討を行う。まず,ドイツ法では,身体外部から作用する傷害事故として,健康障害をもたらす因果の連鎖の端緒となる出来事が考慮されることや,身体外部からの作用が直接健康障害を引き起こす必要はなく,間接的作用でも足りる場合があることなどが明らかになる。次いで,これらのリサーチ結果を参考にして,平成19年の最高裁判決の判断枠組みが外来性判断に因果関係の要素を持ち込まないことを論理必然に要求するわけではないことを示した上で,因果関係の要素を持ち込んだ場合の判断基準等について検討を行う。