2022 年 84 巻 2 号 p. 1-35
パラメトリック保険のレジリエンスファイナンスとしての可能性を,保険を含む従来の自然災害リスクファイナンスとの比較と,パラメトリック保険の先行事例の分析をとおして考察した。その結果,保険金支払いまでのタイムラグが短いこと,損害調査を必要とせず保険料の低廉化が期待できること,客観性,透明性が確保されること,リスク移転者の損失回避・縮小努力を促し得ることなどの点において,パラメトリック保険は評価できるものの,プロテクションギャップが深刻となり得ることが示された。自然災害リスクの保険可能性が低いことに起因して,実損填補方式の保険が,限定的な補償しか提供し得ないことを考慮すれば,従来の保険に併せて,パラメトリック保険を付加的に手当てすれば,被害発生前にはリスクコントロール活動を促進し,被害発生後には生活復旧,事業再開のための資金の早期入手が可能となると示唆された。そのためには保険事業がパラメトリック保険を広く提供することが前提となるが,その際には,損失推計モデルの精度を向上させると同時に,それが過度に複雑化することで客観性,透明性が損なわれることがないよう,またモデル構築・運用の費用負担が過大とならないよう留意する必要がある。