損害保険研究
Online ISSN : 2434-060X
Print ISSN : 0287-6337
84 巻, 2 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
<研究論文>
  • ―自然災害対応力・回復力の向上を目指して―
    諏澤 吉彦
    2022 年 84 巻 2 号 p. 1-35
    発行日: 2022/08/25
    公開日: 2024/03/15
    ジャーナル フリー

    パラメトリック保険のレジリエンスファイナンスとしての可能性を,保険を含む従来の自然災害リスクファイナンスとの比較と,パラメトリック保険の先行事例の分析をとおして考察した。その結果,保険金支払いまでのタイムラグが短いこと,損害調査を必要とせず保険料の低廉化が期待できること,客観性,透明性が確保されること,リスク移転者の損失回避・縮小努力を促し得ることなどの点において,パラメトリック保険は評価できるものの,プロテクションギャップが深刻となり得ることが示された。自然災害リスクの保険可能性が低いことに起因して,実損填補方式の保険が,限定的な補償しか提供し得ないことを考慮すれば,従来の保険に併せて,パラメトリック保険を付加的に手当てすれば,被害発生前にはリスクコントロール活動を促進し,被害発生後には生活復旧,事業再開のための資金の早期入手が可能となると示唆された。そのためには保険事業がパラメトリック保険を広く提供することが前提となるが,その際には,損失推計モデルの精度を向上させると同時に,それが過度に複雑化することで客観性,透明性が損なわれることがないよう,またモデル構築・運用の費用負担が過大とならないよう留意する必要がある。

  • 植村 信保
    2022 年 84 巻 2 号 p. 37-52
    発行日: 2022/08/25
    公開日: 2024/03/15
    ジャーナル フリー

    保険会社の経営内容に関する情報開示と,それを伝えるメディアの役割に関する研究の一環として,損害保険会社に焦点を絞り,情報開示とその伝達に関する課題を明らかにした。近年の損保決算報道を確認したところ,生損保に共通した「報道内容の固定化」のほか,会計上の当期純利益に偏った報道や,豊富な開示情報を活用していないなど,独自の問題が判明した。経営情報のわかりにくさは生保だけではなく,損保には生保と違った難しさがあり,リスク情報のより一層の開示充実が求められている。

  • ―理論編―
    大塚 英明
    2022 年 84 巻 2 号 p. 53-84
    発行日: 2022/08/25
    公開日: 2024/03/15
    ジャーナル フリー

    損保各社の傷害保険約款には,古くから「限定支払条項」が設けられてきた。英米の傷害保険契約では,原則として一部でも疾病の影響によって発生した身体傷害は,保険事故としての要件を欠くことになる。それと比較すると,理論的にみて同条項の扱いは異色といえる。しかもわが国の下級審判決には,これを割合的保険金支払の根拠として利用するものが散見される。それが容認されるとするならば,同条項はすでに保険実務において現実的に大きな効果を及ぼしていることになる。それにもかかわらず,同条項についてはこれまで包括的な研究が極めて希であった。同条項の文理解釈を徹底させないまま,実利的な運用を促進することは危険である。そこでまず本稿では,同条項の法的背景理論を探り,それが「傷害結果」のみならず「傷害自体」の成否に遡って影響することを明らかにする。その上で,同条項が,民法の伝統的な割合的因果関係論とどのように異なるかを慎重に検証してみることにしたい。

<研究ノート>
  • 永井 治郎
    2022 年 84 巻 2 号 p. 85-107
    発行日: 2022/08/25
    公開日: 2024/03/15
    ジャーナル フリー

    ニコラス・バーボンは,17世紀イングランドの優れた実業家であるとともに慧眼の経済思想家でもあった。本論稿は,実業家時代におけるバーボンの保険業・建築業の経験が,後日の経済思想形成に対していかなる影響を与えたのかを,究明するものである。この影響の究明は,3つの過程を辿ることによって行われる。①  保険業者バーボンによる「事故の不変の成り行き」の発見が,貿易差額論批判へと展開する過程②  保険業者バーボンによる「リスク同一性」の発見が,商品価値認識へと転化する過程③  建築業者バーボンによる「住宅商品市場の開発」が,需給的価値論を導入する過程さて上記過程を追究した結果,バーボンの実業経験はいずれも,後日の経済思想形成に大きな影響を及ぼしていることが確認された。一般的に経済思想家の研究は,文献を中心に展開されるが,バーボンの場合,これに実業体験を加味して,その人物像を形成する必要があるのではなかろうか。

<寄稿(RIS2021優秀論文)>
  • ―研究開発規模に着目した実証分析―
    谷村 美雨, 後藤 陽太, 横田 みなみ
    2022 年 84 巻 2 号 p. 111-128
    発行日: 2022/08/25
    公開日: 2024/03/15
    ジャーナル フリー

    2021年6月,コーポレートガバナンス・コードが改訂され,「プライム市場」の上場企業に関しては,モニタリング機能強化の観点から,取締役会における独立社外取締役比率が3分の1以上に引き上げられた。その一方で,企業の内部者のみが知り得る企業特殊的な情報が意思決定上の重要性を有する場面では,企業の内部者・外部者間の情報の非対称性が深刻となり,社外取締役によるアドバイス機能が低下する可能性も指摘されている。本論文では,企業特殊的な情報の重要性が高いと考えられる研究開発活動に着目し,そうした活動が活発な企業において,社外取締役比率と企業の収益性との関係について実証的に検討する。実証分析の結果,研究開発活動を活発に行う企業において,社外取締役比率が高いことが企業の収益性に負の影響を与える可能性が示唆された。

<損害保険判例研究>
feedback
Top