損害保険研究
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Print ISSN : 0287-6337
<研究論文>
限定支払条項に関する小考
―理論編―
大塚 英明
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2022 年 84 巻 2 号 p. 53-84

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抄録

損保各社の傷害保険約款には,古くから「限定支払条項」が設けられてきた。英米の傷害保険契約では,原則として一部でも疾病の影響によって発生した身体傷害は,保険事故としての要件を欠くことになる。それと比較すると,理論的にみて同条項の扱いは異色といえる。しかもわが国の下級審判決には,これを割合的保険金支払の根拠として利用するものが散見される。それが容認されるとするならば,同条項はすでに保険実務において現実的に大きな効果を及ぼしていることになる。それにもかかわらず,同条項についてはこれまで包括的な研究が極めて希であった。同条項の文理解釈を徹底させないまま,実利的な運用を促進することは危険である。そこでまず本稿では,同条項の法的背景理論を探り,それが「傷害結果」のみならず「傷害自体」の成否に遡って影響することを明らかにする。その上で,同条項が,民法の伝統的な割合的因果関係論とどのように異なるかを慎重に検証してみることにしたい。

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