抄録
牧草の乾物当り燃焼熱を部位別,草種別,季節別に調べるとともに,採草地と放牧地の単位土地面積当り熱量現存量を求め,その変動を調べた。供試したサンプルは,(1)栃木県西那須野町草地試験場内,大型枠圃場,オーチャードグラス採草地(標高320m),(2)同場内,藤荷田山放牧地(標高330m),(3)福島県西郷村,福島種畜牧場芝原放牧地(標高750-800m)で採取した。それぞれの地点の年間施肥量は,N:P_2O_5:K_2O(kg/10a当り)で(1)25:25:25,(2)8:4:8,(3)3.5:2.5:3であった。1)部位別燃焼熱の季節変化をオーチャードグラスで調べた。収穫部全体(Ah)としては春先やや高く(4260cal/g),夏に低下(4230cal/g)し,秋に高まり(4400cal/g),年間平均値は4301cal/gであった。部位別には葉身部(Lh:4330-4430cal/g)が高く,茎(Sh,Sl:3890-4070cal/g)が低い(Fig.1).2)草種別の燃焼熱をみると,シバが高く(4450-4580cal/g),以下,シロクローバ≒ケンタッキーブルーグラス≒ミヤコザサ>レッドトップ≒オーチャードグラスの順となり,トールフェスクは最も低かった(4270-4310cal/g,Fig.2,3)。3)放牧圧の影響をみると,ほとんど差は認められなかった(Fig.2)。一方,保護ケージ内外の値を比較すると,常にケージ内(被食前)の値の方が高い(Fig.3)これは単位燃焼熱の値が高い葉身部の占める割合が多いためと思われる。4)立枯やリターの値は低い場合が多かった(Fig.3,立枯:4050-4130cal/g,リター:3930-3940cal/g)。5)放牧地・採草地とも地上部の熱量現存量は6月にピークに達し,夏に低下し,秋にやや回復する。地下部についてもこれとほぼ類似したパターンが認められた。その結果,4年間のオーチャードグラス採草地における刈取前の地上部熱量現存量は最小値1000-2000kcal,最大値は1900-2700kcal/m^2をとり,地下部は800-1500kcal/m^2の範囲で変動した(Fig.4)。6)一方,6草種混播の放牧地における熱量現存量は地上部,地下部ともオーチャードグラス採草地より大きく,弱放牧区の最大値は地上部で2900-4100kca1/m^2,地下部は2900-4300kcal/m^2となった。強放牧区は,地上部が2000-3400kcal/m^2,地下部が2300-3400kcal/m^2であった(Fig.5)。7)熱量ベースのT/R比は,放牧地はほぼ1前後に終始した。特に強放牧区は年間を通じて1以上にはならなかった。採草地では0.9から2.2の範囲にあった。これらの値は一年生作物に比較すると著しく小さく,多年生の野草よりは大きい。地上部と地下部の熱量が年間を通じてほぼ等しいことは,牧草の地下部が貯蔵組織として機能し,環境や人為による損傷に対して,安定した生産活動を継続する基盤になっていると考えられる。