本稿では,3種の比喩,すなわちメタファー,メトニミー,シネクドキの認知プロセスとしての役割に注目し,場所が比喩によって構築されていることを認知言語学の視点によりつつ論じた.まず,場所の意味形成の全体像を探るため,場所をめぐる表現や認識,地名による命名を検討し,従来は指摘されていなかった事例も含め,場所に関する比喩を網羅的に提示した.その上で,場所の意味が3種の比喩によってネットワーク状に拡張していることを明らかにした.また場所の意味拡張においては,メトニミーの上にメタファー,シネクドキが働く例が多いという場所の特徴を引き出した.さらに,場所が参照点として成立することに着目して,メトニミーは場所それ自体を構築する認知プロセスとしてみることが可能であることを論じ,意味形成にとどまらない比喩の意義の一端を示した.比喩は場所の言語的構築の基本的な部分に大きな役割を果たしていると考えられる.