自然保護地域の運営には,利用面の配慮が求められるが,都市近郊に位置する小面積の自然保護地域の利用実態は明らかではない.そこで,愛知県に存在する三つの湧水湿地保護区を事例に,利用者層・利用行動・利用体験の諸相を明らかにした.来訪者へのアンケートによると,来訪者の中心は,夫婦・親子・友人からなる2人または数人のグループで,その大半が近隣自治体に居住する50歳代以上の中高年者であった.主たる来訪理由は自然観察と散策で,滞在時間は短かった.こうした利用者の特性は,常時公開か否かといった公開方法や広報内容,公開時の運営手法によっても変わりうることが示唆された.利用者の満足度と満足内容を分析すると,保護対象についての知識や観察方法を適切にガイドすることが高い満足度に結びついていた.一方,湿原の植生遷移の進行や動植物の減少といった自然保護上の問題が満足度にも悪影響を及ぼしていた.