本研究は,山腹斜面に人工林の卓越する景観が形成されてきたプロセスを,複合的に展開する生業活動と転出入をともなう就業動向を分析することから明らかにした.研究対象地域はかつて木場作と呼ばれる林業前作型の焼畑農業とマツ短伐期林業が営まれていた熊本県芦北町黒岩集落とした.その結果,人工林が卓越する景観となった要因として,就業地の遠隔化などで世帯員が減少したりする中で木場作から得られる生産物の役割が変化したことが大きく,マツクイムシの被害も相まってマツ短伐期林業の前作的な役割であった木場作が中止された.そして,林地や畑地など多様な土地利用から,スギ・ヒノキの人工林が卓越する土地利用が形成された.他方,面積は小さいものの自給的生産や小規模な販売目的の農業生産を通じた山腹斜面の利用は継続されている.景観は異なるものとなったが,住民の山腹斜面への関わり方は地域内外の需要に応じて利用形態を変容させるというもので一貫していた.