2021 年 94 巻 4 号 p. 234-249
本稿は日本の精神医療改革の新たな理念となる「地域移行」を,M. セールのエクスティテューションextitutionという施設/制度の対置概念を用いて,病院施設/医療制度の「内」と「外」を組み合わせて考察するものである.「地域移行」とは,長期在院者が相談員などの病院外の制度に帰属する者と共に,「閉鎖性」の病棟から「開放性」の病棟,病院近隣,前住地へと向かう多元的なプロセスであり,長期在院者は外の日常世界に慣れることでトラウマを軽減させ,人間としての尊厳を回復させている.ただし,「地域移行」は実際のところ行きつ戻りつの進捗で,国が想定する支援期間よりも時日を要するものであった.「地域移行」に参与する相談員の不足,基礎自治体ごとに異なる対応に加え,精神科病院の偏在とそれを活用した「転院システム」が存在する東京都では,長期在院者や相談員らの努力と偶有的な状況に依拠することで「地域移行」の実現が可能となっている.