2021 年 94 巻 5 号 p. 313-347
『南ドイツの中心地』を世に問うた翌年の1934年夏,Christallerはアルブレヒト・ペンク財団の支援によって北欧4カ国の研究調査旅行に赴いた.帰国後にまとめられた旅行報告書からは,彼がこの旅行を通して,新たに農村集落に関するテーマへ関心を広げ,集落配置計画論への指向性を育んだことがわかった.そして,これらの経験は,独自の農村集落形態分類を踏まえたドイツ農村自治体再編研究(1937年)や,ナチ・ドイツ編入東部地域における中心集落再配置の計画論的応用研究(1940・1941年)につながっていくものであった.また,報告書から窺える,北欧の都市ネットワークを理解するのに際しての歴史的な視点と,フィンランドとソ連との間での国境問題といった地政学的な課題への関心は,国家学・歴史地理学者のベルリン大学教授Walther VogelがChristallerを自らの「ドイツ帝国歴史アトラス」作製プロジェクトに共同研究者として招き入れる際の好判断材料となった.