本稿では,神奈川県において実施された社会調査とそれに従事した学生調査員の手記を併用して,高度成長期における内職の存立形態を地域性,階層性,歴史性の観点から分析する.内職は職種によって地域分化しており,駐留軍・特需関連産業への依存度の高い地域で内職の必要性が高いという地域性がみられる.階層性の観点からは,低収入の世帯ほど内職者を擁する傾向は変わらないものの,経済成長の過程で内職に期待される家計への寄与度に対応して,職種や働き方が選び取られるように変化した.学生調査員の手記は,内職をめぐるミクロな地域性と階層性の関係性を描き出す一方で,調査経験を通じて内職に対する学生調査員の先入観はむしろ強化されたことを示唆する.学生調査員の手記は,調査に関与した諸主体の意識の違いがさまざまに絡み合い,結果として生み出されるデータに反映していたことを示していた.この知見は,社会調査史の発展にも寄与しうる.