抄録
以上述べた處を總括するに先づ東京に於ける紫外線の強さの年變化に就いて見ると大體日射量と共に増減し,調査期間(昭和13年8月から昭和14年2月)中では8月に最も強く漸次減少して1月に最小を示した。之は日射量の變化と同じく全く太陽高度の低下と晝間時數の減少に對應するものであつて此の影響を除く爲に各旬別の太陽輻射量を計算し,前の觀測値に更正を施すと不規則な昇降を示すことが明らかにされる。此の不規則變化は主として其の期間の天氣の状態によつて定るもので天氣指數の變化と非常に良く合ふことから此の事實が確認されるのである。
次に大都市の内部及びその附近に於ける紫外線の分布に就いては今日まで一般に考へられてゐたとは稍〓趣を異にする場合があつて,必ずしも都心の地域が最も紫外線に乏しいとは限らみい事實を明らかにすることが出來た。特に東京の様な面積の巨大なる都市に於いてはその中心部に却つて紫外線の強い地域が認められるのであり,之は昭和13年に於ける春季と秋季の2囘の調査によつて明らかにすることが出來た。併し都市が小さくなるに從つてその分布型式は漸次單純となり,例へば名古屋市に於いてはその西南部の工場地帶に於いて最も紫外線が弱く,市の中心部が之に次いでゐる。大阪市も亦大體之と類似の結果を與へるが,之は市域の面積が小なることに基因するものであらうと考へられる。
次に紫外線の分布を著しく支配するのは風であつて,特に風の強い時にはその風向によつて分布状態が可なり異つて來る。大阪市及び名古屋市では西寄りの風の時に紫外線の最も弱い地域が東の方へ壓しやられ,却つて西部の工場地帶に紫外線の強い事實を見たが之は全く風によつて煙塵其他の微粒子が東の方へ吹送られて此處で紫外線を遮ぎる爲であらうと考へられ,此の際に又地形も可なり大きな役割を演じてゐる。從つてその日の天氣の状態によつても紫外線の分布状態は著しく異つた結果を生ずることになる。
此の研究で得た各〓の場合に於ける觀測値や觀測者氏名を掲げたかつたが多くの紙面を必要とするので省略することにする。