地理学評論
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黒部川扇状地流水客土事業実施の要因
籠瀬 良明
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1957 年 30 巻 3 号 p. 168-192

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抄録
富山県黒部川扇状地の水田は,黒部川の異常低水温扇状地用水路の急傾斜,花崗岩質砂土の水滲透と溶脱などによる鉄分欠乏のために,甚だしい冷水害と秋落現象を起し,米の反収を著しく低めている.これに積雪,低い地力とレンゲ栽培,高い水田率,労働市場への不便,商品作物販売の困難などがからみ合い,早場米を主とする水稲単作地帯を現出し,その窮迫の打開を水田そのものに求めざるを得なかつた.太平洋戦争の進展は全国各地の諸事象にさまざまな変化や影響を及ぼしたが,本扇状地でも地域の特性に照応して多くの影響をうけた.
すなわち(1)本扇状地ではその地力が低く,かつレンゲを除き自給肥料源を欠いていた故に,肥料供給激減の影響は,この地域をとくに一層の低位反収地域におとした.(2)それまで高かつた反収の急落をみた地域の故に供米制の実施は,本扇状地の農民をとくに甚だしい苦境に陥れ,また陥させたと意識する.すなわち供出の困難敗戦後は闇米皆無または僅少による農家経済の不利を痛感させ,稲作の有利化→土地改良→流水客土への着意を強めさせる.(3)農地改革による自作農化と,24年の土地改良法並びにその補助規定に,300町歩以上の水田を持つ本扇状地(のみ)がパスし,農地解放で自作農となつた地域の耕作農民は,ここに流水客土事業実施へと踏切るにいたる.(4)本扇状地の地域性はお部むね流水による客土を可能にする.
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