地理学評論
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畑地灌漑地の地下水と塩害除去
長沢 幹雄
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1958 年 31 巻 8 号 p. 465-476

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抄録

1) 古くから畑地灌漑が行なわれている堺市周辺の疏菜栽培地について,その灌漑方法を調べ,灌漑水である地下水の化学或分の分析を行なつた.経営規模は小さく,協同化はみられず,栽培は高度に集約的である.
土壌は海沿いでは砂土,砂壌土,台地では壌土,埴壌土がある.井戸深は海岸では1~3m, 台地では6~10m,水深は前者で1~2m, 後者で2~6mである.揚水方法は海沿いでは風車が多いが,台地では動力使用が増加している.
地下水の溶存塩類は多量であり,水平分布は多様であるが, 4地区を3つの型に分類できる.陰イオンについてみれば,
a. Cl>NO3>SO4>HCO3 III
b. Cl>SO4>HCO3>NO3 I, II
c. SO4>Cl>HCO3>NO3 IV
である. aはIII, bはI, II, cはIVを概括する.このことはCl: SO4についてもよく特徴づけられた.蒸発残渣は特例を除き240~1350mg/lの間にあり, 1000以上はすべてcで, c>b>aとなる.同様にしてpH, 重炭酸塩の間にもc>b>aの関係が成立つ. Clの分布は各地区一様であるが環境の影響の差違はあきらかである.各態窒素の間および燐の間の関係は複雑である. CaとMgもcが最大であつた.したがつていわゆる汚染は一般的に大であり,その順序はでc>b>aある. Clイオンの量がしばしば地下水汚染の指標とされるが,この種地下水では, SO4, HCO3と伴なつて小地域の特性がより分明になる.
このような地域差には帯水層の深さ,流動,土壌の性質等に加えて海水,肥料塵芥類,工場排水等各種の要因が錯雑している.要因の組合せによつて多様な変化が生じる.
旱害防止とともに,多量に施用される窒素質肥料の吸収を容易にする点に灌漑効果をみいだす.
2) 大都市近郊の蔬菜栽培地としては,珍らしく大規模な比較的粗放な経営の独特な構造を示す大阪市加賀屋新田において,その塩害除去灌漑法について調べた.干潮時排水樋門を開き,塩分の増した排水を除き,大和川から淡水を引水し,灌水する,夏季3日に1度,冬季10日に1度ぐらいの割合で行なわれる.
大和川,十三間掘川を経て導かれる淡水は時により都市排水の流入で汚濁しているが,含塩量はかならずしも著増せず,灌漑水として適当である.耕地内水路の水の含塩量は流程にしたがい急激に増加し,排水門付近では海水の1/3ぐらいの塩濃度になる.
耕地内溜池の含塩量は水路との連絡の有無,土壌状態,施肥等と関連して多様である.水路の含塩量のいちじるしい場合はCa: Mg等から当然海水によるものとみなされるが,溜池の含塩量が大なる場合は水路のそれとは異なり,海水と同様ではない.砂土壌を通して濾過,溶脱ないし蓄積の複雑な変化が行なわれるためと考える.耕地内溜池の可良なものを活用することで農繁期の労力の軽減ができよう.
水路および溜池の水について数種の溶存塩類の種々な関係を求め,その特質を明らかにした.この灌排水法ではC. S. Scofieldのいう塩平衡21)が保たれているとおもわれる.

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