地理学評論
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児島湾干拓地の土地改良と農村構造
南 智
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1960 年 33 巻 8 号 p. 424-435

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抄録
明治後期から大正期にかけて用排水事業を中心とした土地改良が全国的に展開するが,この時期の耕地整理の過程を農村構造との関連において把握した.児島湾干拓地にある研究対象地域は近世後期に幾次にもわたる小規模な海面干拓によつて造成された新田地帯で,干拓当初から用水計画をもたず,また干拓地としてはまれにみる分散零細耕地形状を特色としていた.地主制の確立にともなつて,地主が指導層となつて土地改良の計画が生まれ,大正元年から地主的利益を中心とした耕地整理がおこなわれる.大正4年には用水機の設置,用排水路の整備が完了し,反収増加と増歩地がもたらされ地主層の耕地整理にかけた期待は一応果たされた.この事業はここで一たん中断されるが,大正末期になつて直接生産農民のなかから区劃整理,交換分合を中心とした耕地整理を推進する動きが生まれ,これが実施せられて労働生産力の発展がもたらされる.これは大正初期以降の著しい反収の増大と商品生産化を軸として農民層分解が進み,これを通じて直接生産農民のなかの農村実力派が地主層にかわつて農業技術の指導層となつてくる過程でもあつた.耕地整理の内容は農村構造のあり方に規定される.
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